"COMME des GARÇONS HOMME" 96AW Thick wool zip-up coat

実用性と前衛性を日常の輪郭へ滑らかに落とし込み、メンズウェアの定石を静かに更新し続けてきたCOMME des GARÇONS HOMMEより、96年AW田中オム期を象徴するジップアップコートの逸品をご紹介致します。

削ぎ落とした構成の中に、機能がそのまま意匠として立ち上がっているこちらの逸品。

こちらは内タグの表記から1996年秋冬であることが判別できる背景があり、シーズンを跨いでも通用する普遍性に加えて、田中オム期特有の端正な実用主義が宿る点で、年代を伴った説得力を備えた個体と言えますね。

フロントは一直線に走るジップ仕様となっている為、ボタンコートのような儀式性よりも、着脱のスピードと所作の軽さが際立ち、閉じた際は縦のラインが強調されて身体の輪郭をすっきり見せてくれます。加えて、襟はしっかりとしたラペルの形状を残していることで、ジップアップでありながらシャツやジャケットの延長として扱える品が保たれており、カジュアルへ傾き過ぎないのが嬉しいところですね。

ポケットは斜めに配されたジップポケットとなっており、手を入れた時の角度が自然であることに加え、金属のラインがミニマルな黒の面へ緊張感を与える為、装飾を足さずとも佇まいが締まります。また、袖口にはタブとボタンが備わっていることで、手首周りの収まりを調整できる実用性がありつつ、腕の終点に小さなアクセントが生まれる為、全体の無機質さが単調になりません。

背面はセンターの切り替えがすっと通っており、その直線が生地の落ちを整える役割を担うことで、後ろ姿に無駄のない立体感が生まれていますし、着丈も程よく長く設計されている為、コートとしての包容力を持ちながら、重々しさではなく均整で語れるバランスに仕上がっていますね。

過剰な主張を避けながらも、素材と構造だけで存在感を作りたい方や、ギャルソンの文脈を日常へ自然に落とし込みたい方へ特におすすめで、96年AW田中オム期という背景込みで所有する価値が明確な逸品となっております。

スタイリングとしては、端正なスラックスやミニマルなシャツを合わせて線を整えることで、このコートの直線美がより映えますし、インナーはシンプルなニットや薄手のトップスに留めてレイヤードの厚みを抑えると、ジップのシャープさが際立って上品にまとまりますね。足元はレザーシューズやブーツで質感を揃え、バッグは構築的なものを添えると、ジェンダーを問わず静かな緊張感を纏える逸品となっております。

是非この機会に。