「秋冬アウターの最適解」――“トレンド”と“クラシック”の狭間で、これから何を選ぶか
1. 「秋と冬が一瞬で入れ替わる」時代のアウター問題
ここ数年、日本の季節はよく「二季化」と言われます。
長く続く蒸し暑い時期と、突然やって来る冬。
少し前までは、
- 9〜10月:ライトアウター
- 11〜2月:しっかりしたコート
- 3月:また軽めに戻す
というリズムがありましたが、今は「暑い」から一足飛びに「寒い」へワープしてしまう感覚に近いかもしれません。
この変化の中で、従来の「ウールのロングコートを買っておけば安心」という考え方だけでは、どうしても着る期間と投資のバランスが取りづらくなっています。
では、今の気候とライフスタイルを前提にしたとき、秋冬アウターの“最適解”はどこにあるのか。
今回は、クラシックな名作コートから最近のコレクションまでを横目に見ながら、トレンドと定番のあいだにある、これからのアウターの選び方をゆっくり考えてみたいと思います。
2. まず「軸」になるクラシックを確認する
秋冬アウターの話をするとき、土台として避けて通れないのが、いわゆる“クラシック”な外套たちです。
- 雨の文化とともに育った Burberry や Aquascutum のトレンチコート
- シティの紳士服として洗練されてきた チェスターコートやポロコート
- 60–70年代の Yves Saint Laurent が描いた、細身のロングコートとスーツのシルエット
- 90年代の Jil Sander が徹底した、装飾をそぎ落としたミニマルなコート
これらはディテールや長さは変化しつつも、「まっすぐに落ちるラインと、身体から少しだけ離れたシルエット」という共通点を持っています。
近年でも、
- The Row のロングコート
- Phoebe Philo 期 Céline のクリーンなラップコート
- Lemaire の、丸みを帯びながらも縦に流れるコート
などは、クラシックを現代の身体感覚に合わせて更新した好例と言えます。
こうした“クラシック軸”の良さは、流行語ではなく「線」の美しさで印象を残せること。
どれだけトレンドが動いても、「まっすぐな前身頃」「余白のある肩」「膝前後の安心する丈感」は、ほとんど賞味期限がありません。
3. 一方で、トレンドは「誇張されたコート」でやって来る
アウターのトレンドは、多くの場合、誇張として現れる傾向があります。
- デムナ期 Balenciaga に象徴される、肩を大きく張ったオーバーサイズのコート
- 細いボトムと対比させる、極端なコクーンシルエットのダウン
- カラーコート(真っ赤、ライムグリーン、コバルトブルーなど)の復権
- パテントレザーやエコファーを大きく使った“見るだけで暖かい”アウター
最近の Prada や Loewe、Bottega Veneta のコレクションを見ても、コートは「シルエットで瞬時に語るアイテム」として、ランウェイの中でもかなり強いボリュームで扱われています。
ここで難しいのは、“今年らしさ”が出やすいほど、翌年以降の扱いが難しくなるという点です。肩が誇張されたコートや主張の強いカラーは、一着持っていると確かに気分は上がるものの、「毎年必ず着る軸」としては少し不安定になりがちです。
では、トレンド性の高いアウターをすべて避けるべきかというと、そういう話でもありません。
アウターは面積が大きいぶん、「クローゼット全体のムードを一気に更新してくれる存在」でもあるからです。
4. 二季化する日本で考える、“これからの最適解”
日本の気候が「長い夏+短く鋭い冬」のような二季構造に寄っていく中で、アウターに求められる役割も少しずつ変わっています。
ざっくり言えば、
- 「気温に合わせて出番が長いもの」
- 「シルエットや素材で、シーズンのムードを決定づけるもの」
の二つに分けて考えると、少し整理しやすくなります。
① 出番が長い“橋渡し”アウター
- 軽めのウール/ナイロン混のコート
- 一枚仕立てのガウンコート
- 中綿は薄く、レイヤード前提のショートブルゾン
こうしたアウターは、10月〜12月、3月〜4月と、意外と着る期間が長い存在です。
コートとしては軽やかですが、インナー次第で体感温度の調整がきくため、「気温の読めない時期の保険」としてワードローブの中軸になります。
② 季節のムードを決める“象徴”アウター
一方、真冬の一番寒い時期に頼りになる、
- 肉厚なウールのチェスター
- 立体的なダウンコート
- ムートンやアルパカのボリュームコート
などは、着る期間こそ短くても、「その年の冬のイメージを決める存在」になりやすいアイテムです。
ここには、トレンドの要素を少しだけ混ぜても良いのかもしれません。肩のラインをいつもより気持ち落とす、丈を少しだけ長くする、カラーをほんのりニュアンスのあるトーンに振る。それだけでも、手持ちのベーシックなアイテムと合わせたときに、季節の空気が穏やかに更新されます。
5. 「クラシック+トレンド」のバランスをどう取るか
クローゼット全体で考えると、秋冬アウターは
- 揺るがない軸になるクラシック
- その年の気分を乗せるトレンド寄りの一枚
この二つが、無理のないバランスなのだと思います。
クラシックには、前述のようなチェスターコートやシンプルなトレンチ、テーラードに近いロングコートを。
トレンド寄りの一枚には、
- 少し肩の落ちたオーバーサイズ
- 素材で遊ぶレザーやシャギー、キルティング
- 色やディテールで「今」の空気を宿したもの
を選んでいく。
そして「日本の二季化」という現実を踏まえるなら、
・長く着られる“橋渡しコート”を軸にしつつ、
冬の数週間を楽しむための“象徴的な一枚”を添える。
この考え方が、価格と出番のバランスが取りやすい落としどころかもしれません。
6. これからのアウターは、“温度”だけでなく“速度”とも付き合う
もうひとつ、これからのアウター選びで無視できないのが、街の速度です。
リモートワークやフレックスが増え、「会社に行くからコート」「週末はコート不要」というような単純な線引きが効きづらくなっている今、アウターに求められるのは
- 仕事にも街歩きにもすっと馴染むこと
- 天候の変化をある程度受け止められること
- 室内と屋外を行き来しても違和感がないこと
といった、温度とスピードの両方に対する柔軟性です。
ナイロンやポリエステルをミックスしたモダンなトレンチ、撥水加工を施したウールコート、ライナーが着脱できる一枚など、テックとクラシックのあいだにあるアウターは、まさにこの「速度」に対する回答の一つと言えます。
古い名作コートと、最新の機能素材が共存するクローゼット。
そのミックスこそが、これからの秋冬の現実的な“最適解”になっていきそうです。
MOODのひとこと
MOODとしては、アウターを「寒さ対策」だけで選ぶ時代は、静かに終わりつつあると感じています。
- 一年のうち、ほんの数週間しか出番がなくても、纏った瞬間にその冬の記憶を決めてしまう一枚。
- 長い季節の揺らぎを、さりげなく受け止め続けてくれる“橋渡し”の一枚。
どちらも同じくらい、大切な役割を持っています。
トレンドとクラシックのあいだで揺れたときは、
「この一枚は、自分の冬の速度とどう付き合ってくれるだろう」
と考えてみていただけると、選ぶ基準が少しだけクリアになるかもしれません。
MOODはこれからも、エレガントでモード、そしてジェンダーレスな視点から、そんな一枚との出会い方をゆっくり一緒に探していければと思います。