-SPECIAL- "HERMES" 00's Jean-Paul Gaultier Era Engineered Lace Shirt

 馬具工房としての出自を持ち、実用と遊戯、そして伝統と革新を最高峰の職人技術で融合させてきたHERMESより、メゾンの歴史において最もセンシュアルな輝きを放った時代のスペシャルな逸品をご紹介致します。

深く、血の通ったようなボルドーの色彩に、繊細かつ強靭なレース編みでブランドの紋章を大胆に描いた、視覚的な引力が際立つこちらの逸品。

まず年代の根拠として、この個体が放つ”露骨ではない官能性”と”伝統柄の再解釈”というアプローチは、ジャン＝ポール・ゴルチエが指揮を執った2000年代中頃のHERMESが提示した女性像と極めて整合しますね。格式高い「H」のエンブレムや植物の紋章を、あえて肌を透かすレースという儚い素材で構築することで、堅牢な伝統を軽やかに、かつフェティッシュに裏切ってみせる手腕は、当時のゴルチエ期特有の緊張感ある美意識として説明が成立します。

デザインを深く見ていくと、このシャツは単にレース生地を裁断したのではなく、身体のパーツに合わせて柄を配置する”エンジニアード（計算された）”な設計が強みと言えますね。胸元と背面の中心に円形の「H」ロゴ＝アンカドレを配置することで、視線を中心へ集めて体幹を細く見せつつ、そこから放射状に広がる植物柄がボディラインの抑揚を優美に強調する構造になっています。平面的なロゴプリントとは異なり、編み目の粗密だけで図像を浮かび上がらせている為、光の角度によって紋章が見え隠れし、着る人の動きに合わせて表情が有機的に変化するのが価値です。

裾に施された「HERMES - PARIS」の文字を編み込む処理も付加価値で、これをタグやプリントではなく、レースの終端＝リブとして機能させることで、装飾と構造の境界を消し去っています。つまり、遠目にはエレガントな総柄のブラウスに映るのに、近づくほどにメゾンのアイデンティティと超絶技巧が伝わり、距離感によって認識の深度が変化する、その”品格の設計”がアーカイブとしての強みと言えますね。

フロントの極小ボタンと繊細な前立ては装飾ではなく、着こなしのニュアンスを調整する機構として機能している点も見逃せません。全て閉じればクラシックなブラウスとして紋章が正位置に収まり、少し開ければレースの透け感と相まってデカダンな空気が生まれ、ゴルチエらしいアバンギャルドな側面が顔を出す。そのスイッチをボタンの開閉だけで切り替えられる為、同じボルドーでも「貴族的」なスタイルから「退廃的」なムードへ即座に移行できます。衣服としての役割以上に、その日の内面や肌の露出のバランスに合わせて”演出を選べる”ことが、この個体の実用的な付加価値になっています。

さらに、総レースという主張の強いアイテムでありながら、ロゴを色彩ではなく凹凸の差に委ねている為、時代性を宿しながらも嫌味に転ばず、現代のレイヤードスタイルへ自然に接続できるのも強みです。ゴルチエ期のHERMESが再評価される理由の一つに、エルメスの重厚さを軽やかな素材で表現した点がありますが、こちらはその思想が最も分かりやすく、かつラグジュアリーに表れている個体と言えますね。

スタイリングとしては、このシャツ自体が肌という色を背景にして完成する為、インナーは同色のキャミソールで馴染ませてスラックスと合わせればモダンな構造が際立ちますし、当時の空気感へ寄せるなら、ジャケットのインナーとして紋章を覗かせ、レザーやベルベットなど異素材の重さを重ねることで、レースの繊細さを引き立てると、ジェンダーレスに完成します。

是非この機会に。