-SPECIAL- "HERMES" 60’s early sandrine box dark blue calf bit bag

馬具工房としての出自を現在のラグジュアリーへ昇華し、革と金具と構造を同じ熱量で磨き続けてきたHERMESより、サンドリーヌの中でも初期個体としての背景が濃く残る極上の逸品をご紹介致します。

装飾ではなく造形そのものが機能へ繋がる、馬具的な合理性を美に変えたデザインであるこちらの逸品。

このモデルの核となるのは、正面に据えられたビットモチーフの金具で、捻りの入ったバーとリング状のパーツが立体的に噛み合うことで、光が当たるたび陰影が生まれ、濃紺の面に緊張感を与えてくれますね。さらにこの金具は単に目を惹かせる為の意匠ではなく、フラップの留め具として成立する構造だからこそ、開閉の動作そのものが一つの所作となり、持つ人の手元に自然な品格が宿ります。

ボディは台形に近い端正なボックスシルエットで、縫いのラインが角を正確に立ち上げている為、バッグが自立するような張り感が保たれ、置いた瞬間にも佇まいが崩れません。面で見せる設計だからこそ、派手な装飾を足さずとも説得力が生まれ、エルメスの強みである素材と仕立ての密度が、そのままデザインとして読める点が大きな付加価値と言えますね。

素材はボックスカーフ特有のきめ細かな艶が印象的で、光を受けた時に表面が均一に反射する為、濃紺という色味の中に奥行きが立ち上がり、装いを引き締めながらも硬質になりすぎないバランスを作ってくれます。加えて、当時のオールドエルメスに見られる厚みのある革質は、使い込むほどに艶の重なりが増し、時間をかけて自分の手癖が刻まれていく為、所有の満足感が育っていくのも魅力ですね。

ハンドルは長さにゆとりがあり、手持ちでも肩掛けでも収まりが良い設計で、その為クラシックな見え方を保ちながら、日常の動線に無理なく馴染みます。内側は大きく開く作りで、荷物の出し入れが素直にできるうえ、フラップ裏の返しや縫製の揃い方に当時の実直な手仕事が感じられ、外装の端正さと同じ温度で内側まで作られている点が、現代のバッグとは違う贅沢さとして伝わってきますね。

そして年代についても、この個体は刻印がHERMES PARIS表記のみで、後年一般化していくMADE IN FRANCEの国名表記が確認できない点が重要な手掛かりとなります。刻印史の流れとして国名表記が常記される以前の仕様と整合し、素材感も当時らしい密度のあるボックスカーフの表情が見て取れる為、サンドリーヌというモデルの中でも初期に位置する1960年代から1970年代極初期と捉えるのが、信ぴょう性の高い見立てと言えますね。

このバッグの意味合いは、いわゆるアイコンバッグの華やかさとは別に、メゾンの根にある馬具的な美学をそのまま日常へ持ち込める点にあります。ロゴで語るのではなく、金具の造形と革の面で語れる為、静かに上質を理解する人ほど自然に惹かれ、さらに同モデルでも初期個体という背景が重なることで、実用品でありながらアーカイブとしての価値まで宿るのがこの個体の強さですね。

濃紺は、黒ほど輪郭を断ち切らない為、レザーの面に生まれる陰影がやわらかく滲み、バッグの立体が硬さではなく奥行きとして見える点が魅力と言えます。光の角度で青みがわずかに立ち上がることで、同じミニマルな佇まいでも表情の変化が生まれ、持つ人の動きに合わせて印象が更新されていきます。

また濃紺は、フォーマルへ寄せたときは限りなく端正に、日常へ落としたときは重さを残しすぎない色で、装いの中で主役になり過ぎず、それでいて確かな品格を担保できる為、上質な素材や仕立てを好む方のワードローブに自然に溶け込みます。

スタイリングとしては、ミニマルなコートや端正なジャケットに合わせることで、ビット金具の陰影が静かなアクセントとなり、全体が凛と整いますし、落ち感のあるセットアップやシンプルなワンピースに添えると、構築的なシルエットが引き立ち、ジェンダーを問わず品のあるムードへ導けます。素材で奥行きを出したい日は、上質なニットや滑らかなシャツに合わせても主張がぶつからず、手元だけに確かな格が残りますね。

オールドエルメスの核心を、サンドリーヌという名作で味わえる至極の逸品となっております。

是非この機会に。