"Christian Dior MONSIEUR" 90’s Double-breasted mohair blend coat

Christian Dior MONSIEURは、本国メゾンのエレガンスを参照しながら、日本の企画と縫製技術で日常のワードローブへ落とし込んだライセンスラインです。端正なテーラリングを核に、素材の贅沢さや着心地の良さへ意識が向けられている為、肩肘張らずに品格を纏えるところが魅力と言えますね。今回は時代性まで含めて価値が立ち上がる、素材使いが美しい逸品をご紹介致します。

1980年代末から1990年代初頭の空気感を裏付ける情報が揃ったコートであるこちらの逸品。

表地は毛の中にモヘアを50%含むと品質表示に明記されている為、表面には長い毛足と奥行きのある起毛感が生まれ、光の当たり方によってチャコールの濃淡がゆっくりと揺れます。柄はチェックで構成されながら主張を強めすぎず、離れて見ると無地のように締まり、近づくほど織りの表情が浮かび上がるバランスで、襟は大きく取られている為に立てても寝かせても首周りが整い、ダブルブレストの重なりが前身頃へ芯を作ることで、柔らかな素材感でも輪郭が崩れません。ボタンはマットな質感で控えめに配置され、袖口には折り返しの意匠が確認できる為、全体の重心が下がりすぎず、羽織った際の所作も軽く見えますね。裏地はキュプラ100%と表記されており、さらにCDロゴが織り込まれた総柄のジャガードが視覚的に確認できる為、脱いだ瞬間まで気配が途切れない仕上がりです。サイズ表記はLで、当時らしいゆとりを前提にした設計が読み取れます。

年代の根拠としては、まず品番がNo. 0XD5007と記載され、当時の国内ライセンスアパレルで見られる先頭の数字が西暦末尾を示す管理体系に照らすと0が候補となり、そこへタグ意匠のモダンさから1980年を外し、さらに2000年頃のMonsieur末期に寄る細身ミニマルとは異なるダブルブレストとゆとりのバランスから2000年も外れる為、1990年前後が最も整合します。加えてモヘア混の起毛感が強い生地使いは、当時のソフトスーツ隆盛期に象徴される素材志向と一致し、CDロゴの総柄裏地や贅沢な混率がバブル期の余韻を物語ると言えますね。

この個体にしかない付加価値は、モヘア50%という混率が作る質感の説得力と、キュプラ100%の総柄裏地が支える完成度にあります。現代の既製服ではコスト面から実現しづらい高混率によって毛足の陰影と保温性が両立され、さらに内側までブランドコードが行き届く為、羽織るだけで当時の贅沢さを具体的に体感できる逸品と言えます。

日常では、移動が多い日でも装いを一段整えたい場面に自然に馴染みますし、ホテルやレストランのように過度な主張は避けたいが品格は残したいシーンでも頼れます。起毛の表情が装いに奥行きを足してくれる為、色数を増やさずに成立し、着る側の雰囲気だけを静かに引き上げてくれますね。

スタイリングは、ミニマルなシャツに端正なスラックスを合わせ、足元はレザーシューズで締めると、ダブルブレストの構築と襟の存在感が素直に映えます。もう一案は、薄手のトップスに落ち感のあるパンツを合わせて縦のラインを作ると、モヘアの陰影がモードに働き、年代背景の贅沢さも現代の街着として自然に更新できます。

是非この機会に。