"tricot COMME des GARCONS" 2001AW Lace-switched design tailored jacket

コムデギャルソン所属の女性デザイナー、

栗原たお氏が手掛け、編み物という意味のtricotを名に冠し、1981年の創設以来から本ラインとは

一風変わった独自のデザインを生み出し続けているtricot COMME des GARCONSより、アーカイブピースとして貴重な逸品をご紹介致します。

2001年秋冬シーズンに発表され、tricot COMME des GARÇONSの静謐な革新性が端的に凝縮されたこちらの逸品。

2001年秋冬コレクションのtricot COMME des GARÇONSによるこちらのジャケットは、当時の川久保玲が探求していた“フェミニンとタフネスの共存”というコンセプトを体現した、象徴的な一着です。

一見ミニマルなウールジャケットに見える構築的なシルエットの中に、襟元と裾から覗くローズ柄のレースをさりげなく潜ませることで、黒の中に“やわらかさ”と“違和感”を溶け込ませる—そのアプローチは、まさにこの時期のtricotらしいコンセプチュアルな表現だと言えます。

マスキュリンなテーラードジャケットの構造を借りながらも、襟元から背面、そして裾の内側にかけて丁寧にあしらわれたフローラルレースが、いわゆる装飾とは異なる“内省する美しさ”として作用し、時代のムードに抗わず寄り添うような静かな強さを放っています。この季節、世界が大きな不安と変化を迎える中で、コム デ ギャルソンが提示したのは、強さや主張のためのファッションではなく、より個に根ざした“静かなる自己表現”であったと言えます。

ブラックウール100％のベース素材は、ソリッドであると同時に重たすぎず、秋冬らしい温度を持ち合わせており、全体のフォルムは短めの着丈と、ややタイトな肩周りによって引き締まった印象を形成しています。ボディから浮かび上がるように密かに覗くレースは、表面の均質さを裏切るように、どこか耽美的で詩的な余韻を残し、当時のコレクションに共通する“異質なものの内包”というテーマ性が強く感じられます。

また、襟に重ねられたレースの表現は、クラシックなラペルの輪郭をわずかに崩すことで、ジェンダーに紐づいたフォーマットそのものを曖昧にしながら、新たな着こなしの可能性を示唆している点も、この2001AW期ならではの解釈の妙と言えますね。

当時のtricotラインは、メインラインとは異なるアプローチで日常に潜む違和感や微細な感情を掬い上げており、本作のように“着ることそのものが行為となる”アイテムを数多く生み出していました。その文脈を汲み取ればこそ、この一着には単なるアーカイブ以上の意味が宿っています。

感情が外へ向かいづらい時代だからこそ、静けさの中に個性を託すような衣服が、深く心に響く。tricot COMME des GARÇONSが2001年に遺した哲学が、今もなお揺るぎない意義を持つことを改めて実感させてくれる、珠玉の逸品となっております。

スタイリングとしては、毛足の長いウールスラックスや、シアーニットと合わせ、素材のコントラストで陰影を描くような装いがおすすめです。足元にはレザーのスクエアトゥシューズを合わせ、甘さに振り切ることなく、知性と感情のバランスを保ったエレガントな佇まいに仕上げていただけます。

是非この機会に。