-SPECIAL- "GUCCI" 70’s Suede leather round collar coat

右側後見頃下部他シミ、裏地汚れ、ボタン劣化有り

GUCCIはフィレンツェのクラフツマンシップを起点に、馬具由来の実用美と旅装のエレガンスを磨き上げてきたメゾンです。時代ごとに表現を更新しながらも、革という素材に対する解釈は一貫して深く、控えめな意匠の中へアイコンを忍ばせる姿勢も魅力ですね。今回はオールドグッチの空気感を濃密に映す、端正なレザークラフツマンシップが光る極上の逸品をご紹介致します。

1970年代中後期のオールドグッチを象徴する威厳を放っているこちらの逸品。

深いボルドーのスエードが全面に用いられており、毛足が光を吸い込む為、色味に奥行きが生まれて陰影の出方がとても上品です。襟はラウンドカラーで柔らかな印象を与えつつ、フロントはボタンで縦のラインを整える設計なので、甘さへ振れずに端正さへ着地しますね。胸元には左右にジップポケットが配され、視線が上へ流れることでロング丈でも間延びせず、さらに腰位置には大きめのパッチポケットを備えている為、実用性とムードの両方が成立しています。肩にはエポーレットが確認でき、旅装やユニフォームのニュアンスをさりげなく差し込みつつ、袖口にはジップが付くことで手元の収まりを調整できる作りです。ボタンはレザーのくるみ仕様のように見え、中央にインターロッキングGが刻まれている為、主張を抑えながらもしっかりと格を示しますね。タグには筆記体のG. Gucciと騎士と盾の紋章が入り、法人表記にs.r.l.が記され、加えてMade in ItalyとGenuine Leather、サイズ表記44が確認できる為、グッチ一族が経営権を握っていた時代のイタリア本社製造という背景まで読み取れます。なお裾付近に小さな色ムラが見受けられますが、着用時に大きく印象を損ねる見え方ではなく、ヴィンテージとして自然に馴染む範囲です。

この年代と言える根拠は、筆記体のG. Gucci表記とカラーの紋章を伴うタグ構成にあり、80年代以降に主流となるブロック体のロゴとは明確に異なる点から、70年代中後期の個体と言えますね。加えて、この時代の豊かな旅文化やジェットセットの装いが求めたのは、遠目に派手さを出す装飾ではなく、近距離で差がつく素材の厚みと色の深さであり、その価値観を総スエードで真正面から体現している点が、この逸品にしかない付加価値です。刻印入りのレザーボタンやジップの配置、エポーレットの端正さが一つの文法として揃っている為、単なる古着のスエードコートではなく、当時のGUCCIが提案した旅装の完成形として成立しています。

日常では、仕事終わりの会食や美術館のように空気を整えたい場面で特に映えますし、ロング丈の面積が装いの軸になる為、合わせは削ぎ落としても品位が保てますね。素材の表情が主役なので、距離が近い場所ほど説得力が増し、静かに印象を残せる一着です。

スタイリングは、ミニマルなシャツに端正なスラックスを合わせ、足元はレザーシューズでまとめると、オールドグッチの旅装らしい品格が自然に立ち上がります。

もう一案として、タートルネックのトップスにワイドシルエットのボトムを合わせると、縦のラインが強調されつつスエードの陰影が引き立ち、ジェンダーレスに整ったムードへ着地しますね。