都市とファッションの関係性
― 東京・大阪・ソウル・パリ・ロンドン。なぜその街で、特定の装いが愛されるのか
服は、デザインや素材だけで完結するものではありません。どんな街で、どんな移動をして、どんな場に入っていくのか。都市の気候、街並み、働き方、買い方、そして文化の蓄積が重なって、同じアイテムでも“似合い方”や“選ばれ方”が変わっていきます。
ここでは、東京・大阪・ソウル・パリ・ロンドンが持つファッションの土台を、分かりやすい言葉で整理しながら、今の空気までつなげていきます。
パリ:ラグジュアリーが「制度」として守られてきた街
パリが特別なのは、ファッションが「好きな人の文化」だけでなく、「社会のしくみ」として支えられている点にあります。パリ・ファッション・ウィークやオートクチュールの発表は、公式な団体がカレンダーを整え、一定のルールの中で運営されています。さらに、オートクチュールという言葉自体にも、フランスでは基準があり、誰でも自由に名乗れるものではありません。
こうした背景があるため、パリでは服が“新作”である前に、“歴史の続き”として見られやすい。アトリエの技術、素材、仕立て、メゾンの作法が評価の中心に置かれ、上質さが言葉として成立しやすい街です。
今のパリは、軽やかな日常着が増えた時代でも、最終的に「きれいな線」「誠実な素材」「作りの説得力」に戻っていく場所として機能しています。
ロンドン:仕立ての文化と、若い発想が同時に息づく街
ロンドンは、伝統と新しさが同じ距離で並ぶ街です。サヴィル・ロウに象徴されるテーラリングの文化があり、きちんとした服の“型”が街の記憶として残っています。
一方で、若いデザイナーを生み出す教育やコミュニティが強く、新しい形や強い表現が受け入れられやすい空気もある。
そのためロンドンでは、クラシックなコートやスーツが、ただ保守的に見えない。少し極端なバランスや、新しい素材、崩し方が加わっても、仕立ての地盤があるぶん不思議と成立してしまう。
最近のロンドンは、街の気分としても「きれいに着る」より「自分の温度で着る」方向が強まり、服は肩の力を抜きながらも、線の良さで魅せるものが好まれています。
東京:現場で服が更新され続ける街
東京は、日常の中で服が常にアップデートされる街です。新しい店が生まれ、流行が加速し、古着とラグジュアリーが同じ通りで共存する。アイテムそのものより、着こなしの工夫や組み合わせのセンスが強く評価される空気があります。
東京の特徴は、きちんとしたコートやテーラードも、着る人の解釈次第で表情が変わることです。トレンチが“正統派”のまま終わらず、黒のコートが“重いだけ”で終わらない。
今の東京では、情報量の多い街に合わせるように、服も「分かりやすい派手さ」より、質感やシルエットで差が出る静かな上質さが、じわじわと強くなっています。
大阪:装いが生活に溶け込み、買い物の熱量が生きている街
大阪は、ファッションが「現実の生活」に近い距離で育つ街です。街として買い物の文化が厚く、百貨店や商業エリアが長く栄え、服が日常の楽しみとして根づいている。ストリートの拠点があり、古着の受け皿も広い。
その結果、大阪で支持される服は、見た目の雰囲気だけでなく、「実際に着て気分が上がるか」「ちゃんと使えるか」という感覚が強い。クラシックなアイテムも、きれいな型にはめるより、手元の小物や素材感で自分らしく仕上げる人が多い印象です。
最近は特に、テーラードやレザーなど“強さがある素材”を、気負いなく日常に落とす着こなしが、街の空気として自然に見えてきています。
ソウル:新しさが街のテンポで広がり、体験として届く街
ソウルは、トレンドが広がる速度がとても速い街です。ファッションがショーだけで完結せず、街の中の空間やイベント、ポップアップなどの体験として届けられやすい。新しいエリアが生まれ、そこにブランドが集まり、そこから話題が一気に広がる流れが強い。
そのためソウルでは、服が「良いもの」であるだけでなく、「今の気分に合っているか」「写真や空間の中でどう見えるか」という視点も重要になります。
ただ派手なだけでは続かず、良いものはちゃんと残る。近年のソウルで上質な素材やミニマルな服が強いのは、この街が“軽い流行”と“本当に欲しいもの”を早いテンポで見分けてしまうからでもあります。
都市の変化が、服の選び方を変えている
そして今、どの街でも共通しているのが、気候や働き方の変化です。季節の始まりと終わりが読みにくくなり、在宅と外出が混ざり、移動も多様になった。そうなると、アウターひとつとっても「寒さを防ぐ」以上の役割が求められます。
軽さ、扱いやすさ、気分の切り替え、見え方の品。都市が変わるというより、都市で暮らすリズムが変わり、そのリズムが装いを変えている。そう捉えると、トレンドの見え方も、クラシックの価値も、より理解しやすくなります。
MOODのひとこと
MOODは、都市を「どれが優れているか」で見るのではなく、「その街の空気が、服にどんな意味を与えているか」で見ています。どんなコートが安心に感じるか、どんな黒が美しく見えるかは、街の光や速度で変わるからです。装いに迷った日は、天気予報の前に、今日の自分が歩きたい街の空気を思い出してみる。そんなところから、服はきれいに整っていく気がしています。
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-MOOD POPUP Information-
theme
– MIRAGE –
光が触れた瞬間に、輪郭がほどける場所。
確かさの隣に、静かな揺らぎが立ちのぼる。
mirage という言葉は、蜃気楼や幻影を指し、
“そこにあるのに確かめられない”という曖昧さを含んでいます。
視線の角度や距離によって像が揺れ、
現実と気配の境界がゆっくりと溶けあう現象です。
その移ろいがつくり出すのは、
実体と幻が同居する、わずかに浮遊した空気感。
見るたびに姿を変える、静かな違和感。
MOOD は今回、この “mirage” をテーマに、
明確でも不確かでもない、その中間に宿る余白を
大阪、東京にてひらきます。
・POPUP in OSAKA
-Date-
12/20(Sat.)
12/21(Sun.)
12/22(Mon.)
-Place-
〒542-0081大阪府大阪市中央区南船場4丁目9-11
レイシス心斎橋ビル2F
心斎橋駅から徒歩5分
・POPUP in TOKYO
-Date-
1/3(Sat.)
1/4(Sun.)
1/5(Mon.)
1/6(Tue.)
-Place-
〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷 3-53-11
カルム原宿 1F
原宿駅 徒歩5分