【MOOD Styling Letter】Vol.01  ― お客様の「悩み」からひもとく、静かなスタイリングの話

【MOOD Styling Letter】Vol.01 ― お客様の「悩み」からひもとく、静かなスタイリングの話

【MOOD Styling Letter】Vol.01

― お客様の「悩み」からひもとく、静かなスタイリングの話

 



MOODではこれまで、ブランドの背景やコレクションの文脈を軸に、アイテムをご紹介してきました。

今回からのブログでは、そこにもう一歩踏み込み、お客様から実際にいただいた「スタイリングのお悩み」を起点にコーディネートを組み立て、その意図や考え方を丁寧に言葉にしていく試みをはじめます。


「セットアップを日常着として楽しみたい」「フリルアイテムに憧れるけれど苦手意識がある」「身長とのバランスが難しくて、コーデに自信が持てない」――どれも、とても具体的で、だからこそ誰かの悩みと静かにつながるテーマだと感じました。


服の“正解”は一つではありませんが、考え方の軸や、組み立ての順序が見えると、不思議と選び方がやさしくなる瞬間があります。この連載が、その小さなヒントになればうれしく思います。

 


今回の3つのお悩みと、スタイリングの入口


今回取り上げるのは、次の3つのお悩みです。


  1. 「セットアップやスーツを、もっとデイリーに着たい」
  2. 「フリルシャツを甘くなりすぎず、自分らしく着こなしたい」
  3. 「身長が低くてもバランスよく見えるコーデのコツが知りたい」

 

それぞれのお悩みに対して、MOODが実際にスタイリングを組み、どのアイテムを、どんな役割として置いているかを一つずつほどきながら解説しています。

 

大切にしているのは、「この通りに真似してください」という答えを出すことではなく、


こういう順番で考えていくと、自分のワードローブでも応用がしやすいかもしれない

と感じていただけるような、思考のプロセスを共有することです。

是非参考になれば幸いです。

 

 

お悩み①:セットアップを“日常着”として着たい

 


「スーツやセットアップが好きなのですが、どうしても“お仕事着”や“よそ行き”になってしまいます。

もっと日常的に、ラフな気分で着たい時はどうすれば良いでしょうか?」


セットアップをデイリーに落とし込むときのポイントは、ビジネス感をほどきつつ、きちんと感は残すバランスをどこで取るかというところにあります。今回のスタイリングでは、その“ほどき方”をレイヤードと小物の選び方でコントロールしています。


まず、ジャケットとパンツはあえて少しゆとりのあるグレーのセットアップを選び、インナーにはロゴ入りのデザインTシャツを。胸元の開きとプリントが、スーツ特有の緊張感をほんの少しだけ崩してくれるので、一気に空気が日常寄りに近づきます。

 


首元にはドット×ボーダーのシルクスカーフを巻き、視線の集まる位置に軽い遊び心と艶を。スーツの中にTシャツを入れても“ラフに見え過ぎない”のは、この首元の仕立てが効いているからです。胸元のネックレスも含めて、上半身はあくまで縦にラインが通るように組んでいるので、崩しているのにだらしなくならないというバランスが保たれます。


バッグは、やわらかさのあるレザーボストンを脇に抱えられるサイズ感で。シルクスカーフの艶とは違う、レザー特有の鈍い光沢が加わることで、全体が「きちんとした人の私服」に寄っていきます。さらにサングラスとシューズをどちらもブラウンでそろえることで、グレーのセットアップの中に“茶の軸”が一本通り、スタイリングが落ち着いて見えるのもポイントです。


「スーツを日常で着る」ために無理に崩しきるのではなく、Tシャツで息を抜きながらも、首元のスカーフやレザーのバッグ、ブラウンの小物でさりげなくラグジュアリーさを重ねていく。ビジネスウェアとしてのスーツから一歩離れ、“余裕のある日常着としてのセットアップ”に引き寄せるための、MOODなりの答えがこのスタイリングになっています。

 


お悩み②:フリルシャツを甘くなりすぎず着たい

 



「フリルの付いたシャツが気になっているのですが、どうしても“女装感”が強く出てしまう気がして、上手く取り入れられません。

甘さを抑えつつ、自分らしく着るにはどうしたら良いでしょうか?」


フリルアイテムが難しく感じるのは、フェミニンな要素が一箇所に集中して見えやすいからです。そこで今回のスタイリングでは、フリルシャツの“甘さ”を消すのではなく、別方向の要素を重ねてバランスを取り直すというアプローチを取っています。


インナーにはフリルの入ったホワイトシャツを据え、クラシックでドレッシーなムードをしっかり出しつつ、その上からレザーのテーラードジャケットを羽織ることで、まずは一気に空気をマスキュリン側へシフトさせています。レザー特有の重さと直線的なラペルのラインが加わることで、フリルの柔らかさはそのままに、“甘さ”よりも“強さ”の印象が前面に出てくるイメージです。首元にはタイのように見えるレザーコードを添え、ネクタイほどビジネスライクではないけれど、どこかロックやパンクのニュアンスを感じるアクセントにしています。


ボトムには、あえてワイドシルエットのチェックパンツを合わせています。ここで細身のパンツを合わせてしまうと、フリル+レザーでややハードに寄りすぎたり、どこかコスチューム的な印象になりがちですが、ワイドなグレンチェックを入れることで、フリルの持つドレッシーさと、レザーの無骨さをゆったりと受け止める“余白”が生まれます。足元に溜まるたっぷりとした分量感が、どこか70〜80年代のカルチャーを想起させるのもポイントで、フェミニン/マスキュリンの二択ではなく、音楽や映画の匂いがするスタイルへと視点をずらしてくれます。


仕上げに、ボリュームのあるレザーバッグやグローブ、サングラスといった小物を重ねることで、古着ならではの年代感にとらわれない“今の空気”を足しています。ゴールドの金具やプレートが入ったバッグはラグジュアリーな重さを、サングラスは軽やかな抜け感を添えてくれるので、フリルシャツが持つクラシックさが「特別なドレス」ではなく、カルチャーを感じる日常着として自然に馴染んでいきます。


フリルが苦手に感じるときは、「甘い/甘くない」で考えるのではなく、今回のように

フリル(フェミニン) × レザー(マスキュリン) × ワイドチェック(カルチャー)

というように、異なるベクトルを一つのルックの中で掛け合わせてあげるのがおすすめです。“女装感”を消そうとするのではなく、別の要素を重ねてニュアンスをずらしていくことで、フリルシャツが自分のワードローブの中に、ぐっと現実的に入りやすくなります。

 


お悩み③:低身長でも、バランスよくコーデを組みたい

 



「身長が低くて、どうしてもコーディネートが難しいと感じてしまいます。

低身長でもバランスよく見えるスタイリングのコツが知りたいです。」


低身長の方のスタイリングでいちばん大切なのは、「ゆるさの分量」と「縦のライン」をどうコントロールするかという点です。今回のコーディネートでは、その二つをしっかり押さえたうえで、柔らかさと上品さをプラスすることで、身長に左右されないバランスを作っています。


まず土台になっているのが、ボリュームのあるワイドフレアのパンツです。裾に向かって自然に広がるシルエットは、床までストンと落ちる一本のラインを作ってくれるので、身長に関係なく「下半身を長く」見せてくれます。そこに、ヒップをすっぽり覆う丈感のオーバーサイズカーディガンを重ねることで、パンツのボリュームと上半身の緩さを揃え、全体としてひと続きの“縦のかたまり”に整えています。


さらに、カーディガンの下のボタンをあえて開けることで、インナーのシャツが縦にのぞくように設計しているのもポイントです。この「前身頃の縦の抜け」があることで、ゆったりしたシルエットでも重たくならず、視線が自然と上から下へ流れ、結果としてスタイルアップにつながっていきます。インナーにはほんのり青みのあるシャツを選び、首元には細いリボンのようなタイを添えることで、顔まわりが明るく抜けて見えるようにしています。


そこに、たっぷりとしたボリュームのあるストールを長めに垂らすことで、もう一本の縦ラインを前身頃に重ねています。ストールとショルダーバッグは、どちらもやわらかいトーンのカラーを選び、黒のベースコーディネートの中に穏やかなコントラストを生む役割に。バッグのショルダーストラップも、身体の斜めを走る線として視覚的な“縦長効果”を補助してくれます。足元にはノーズの長いシューズを合わせ、パンツの裾からつながるように見せることで、脚先まで自然にラインが伸びて見えるよう整えています。


低身長の方の場合、「ゆるいアイテムを単に大きく着る」のではなく、今回のように

・ボトムでしっかり“土台の縦ライン”を作ること

・トップスのボリュームはその土台に合わせて揃えること

・前開きやストール、バッグのストラップで“縦の抜け”を意識すること

この三つを意識してあげると、身長に関わらずバランスよく見えやすくなります。


身体のサイズを「隠す」のではなく、ラインの取り方で自然に引き伸ばしていく。この感覚を掴んでいただくためのひとつの答えが、今回のスタイリングになっています。


 

参考にしたいブランドのルックと、そのバックボーン

 

今回の3ルックの裏側には、MOODが日頃から手本にしているブランドやコレクションの記憶があります。直接的にコピーするのではなく、「何を大切にしているスタイルなのか」を読み取ることで、日々の装いにも生かしやすくなります。

 

1. セットアップを日常に引き寄せる視点

 

デイリーなセットアップのスタイルでは、


  • Dries Van Noten のレイヤードから学べる、“緊張と抜け”の同居
  • Phoebe Philo 期 Céline や The Row が得意とする、ゆとりのあるテーラリングと上質なTシャツの組み合わせ

 

といったイメージを下敷きにしています。

きれいなジャケットやスラックスに、ロゴTや光を拾うベスト、小ぶりなスカーフを重ねることで、仕事服ではなく「余裕のある私服としてのセットアップ」というムードが立ち上がってきます。

 

2. フリルを“甘さ”ではなく“ニュアンス”として使う



フリルシャツのスタイリングでは、


  • Yves Saint Laurent のクラシックなフリルブラウスと、マニッシュなジャケットの組み合わせ
  • Ann Demeulemeester のような、ロマンティックとロックの交差する空気感

 

といったルックをどこかで意識しています。


フリル自体を弱めるのではなく、レザージャケットやワイドなチェックパンツ、ボリュームのあるバッグを重ねることで、フェミニン/マスキュリン/カルチャーが同じコーディネートの中で静かに混ざり合うように整えています。

 

 

3. 低身長でも映える、縦ラインの作り方

 

身長のお悩みに対しては、


  • Jil Sander や 現代の Céline/The Row に見られる、ワイドボトムとロングニットの縦長レイヤード
  • Maison Margiela の、余白を残しながらも縦方向にすっと伸びるシルエット設計



などのパターンが思い浮かびます。


ワイドパンツで足元まで線を引き、その上にオーバーサイズのカーディガン、長く垂らしたストール、ショルダーバッグのストラップを重ねていく。そうすることで、身長に関わらず、**目線が自然と上から下へ流れる“ストーリーとしてのシルエット”**ができあがっていきます。





おわりに ― 服との距離を、少しだけ近く



スタイリングのお悩みは、ときに自分自身への悩みと重なって聞こえることがあります。

「自分には似合わない気がする」「背が低いから難しい」「甘い要素が苦手」――そうした言葉の裏側には、本当はもっと服を楽しみたいという気持ちが静かに潜んでいるように感じます。


MOODとしては、その気持ちに寄り添いながら、


こういう見方を加えると、少しだけ景色が変わるかもしれない

という提案を、スタイリングとブランドの知識を通じてお届けできればと思っています。



 

今後について ― ご質問を“スタイリングの種”として

 

今後もこのブログでは、皆さまからいただいたご質問やお悩みをもとに、


  • コーディネートの組み方
  • ブランドやコレクションの背景
  • 素材やシルエットの選び方

 

などを、ひとつずつ丁寧に言葉にしていく予定です。


「こんなシーンで何を着ればいいか迷っている」「手元のこのアイテムをどう活かせばいいか知りたい」など、些細なことでも構いません。DMやメッセージ、店頭でのお話をきっかけに、また次のスタイリングが生まれていきます。


この連載が、みなさまのワードローブにそっと寄り添い、服との距離を少しだけ近づけるきっかけになれば幸いです。

 

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