"YVES SAINT LAURENT" 70’s-80’s structured herringbone tweed tailored jacket

モードが“日常の装い”に昇華された瞬間を作ってきたYVES SAINT LAURENTは、端正なテーラリングに官能と知性を同居させ、男性服の語彙をエレガンスへ変換してきたメゾンです。

その思想がアメリカの上質な百貨店文化とも結びついた時代背景を携え、ヘリンボーンツイードの奥行きが魅力となる逸品をご紹介致します。

ブリティッシュな骨格を思わせる織りの表情と、肩から身頃へ流れる構築的なラインが、羽織るだけで姿勢まで整えてくれる一着であるこちらの逸品。

タグの意匠とDillard’sとのダブルネームという事実から、1970年代後半〜1980年代前半、アメリカ市場で展開された個体であると断定でき、パリのエスプリが“実用の美学”へ翻訳された空気も感じられますね。

まず目を惹くのは、濃淡で奥行きを作るヘリンボーンの織りで、近くで見るほどに陰影が立ち上がり、遠目では静かな面として装いを引き締める為、オンでもオフでも成立する懐の深さに繋がります。

ラペルはやや広めに取られ、顔周りにフレームを作ることでクラシックな迫力を生みつつ、肩周りは程よく構築されている為、70年代のトラッドから80年代のパワーシルエットへ移る過渡期らしい“意思の強さ”が輪郭として残る設計です。

フロントは2ボタンで、留めた時に胸からウエストへ視線が落ちる流れが美しく、開けて着た際もVゾーンが深くならないバランスの良さが魅力と言えますね。

胸ポケットと腰のポケットは控えめに配され、ディテールが主張しすぎない為、素材と仕立ての良さが前に出て、ツイード特有の温度感を上品に纏えます。

袖先には複数ボタンが並び、腕の所作にリズムを与えながら、端正な“仕上げの緻密さ”を視覚化してくれる為、手元まで抜かりなく印象が整います。

内側は滑らかなライニングで、着脱がスムーズになり、ツイードの重みがあっても着心地が硬くなりすぎない為、日常の移動や室内外の切り替えにも強い実用性を備えています。

このジャケットの価値は、パリのメゾンが培った造形美に、アメリカの百貨店が求めた耐久性とリアリティが掛け合わさり、“長く着ること”自体がスタイルになる点にあります。

流行の更新ではなく、仕立ての説得力で選ばれてきた背景があるからこそ、いまのワードローブに置いても古さではなく、品格として残ってくれますね。

スタイリングとしては、シャツや薄手のカットソーにウールのスラックスを合わせ、足元を革靴で締めるだけで、YSLが得意とした端正なムードが素直に立ち上がります。

また、シンプルなドレスやミニマルなスカートにさらりと重ねると、メンズライクな構築がコントラストになり、メゾンの“ジェンダーの境界を越える”美学を綺麗に取り込めます。

是非この機会に。