“KENZO” 80’s Folkloric shearling-lined leather long coat

裾革剥げ有り

パリのモードへ「色彩」と「自由」を持ち込み、フォークロアの温かみを洗練へ昇華してきたKENZOより、1980年代前半（1980〜1984年頃）に発表されたと推測される逸品をご紹介致します。

重厚なレザーの黒味を帯びたブラウンが面として静かに落ち、そこへ毛足のある襟とカフスを配すことで、視覚的な温度と触感のコントラストが際立っているこちらの逸品。

ラペルは角を立て過ぎないバランスで設計されている為、クラシックなコートの文法を踏まえながらも、KENZOらしい柔らかな空気を損なわずに成立していますね。

素材は表側にレザー、内側に起毛感のあるライニングを備えた構造に見受けられ、風を受け止める強さと身体を包む優しさが同居しているからこそ、見た目の迫力に反して着用感が穏やかに整う点が魅力と言えます。

さらに縁をなぞるパイピングやステッチが随所に入ることで、ディテールが装飾として浮かず、輪郭の美しさとして全体を引き締めているのも上質ですね。

フロントには大ぶりなパッチポケットを配しており、実用性を確保しながらも面の余白を活かす配置となっている為、ロング丈でも印象が間延びせず、むしろ縦のラインが端正に伸びて見えます。

袖口は折り返しのボリュームが出る設計で、手元の所作に陰影が生まれるからこそ、シンプルな装いへ羽織った際も“コートが主役になる”説得力を自然に作ってくれますね。

そしてこの個体で特に語るべきは、背面に配されたステッチワークと刺繍の存在で、機械的なモードではなく手仕事の気配を残す意匠により、東欧の衣装を思わせるノスタルジックなムードを纏っています。

背中の切替にはジグザグの意匠が通り、さらにタッセルのような揺れるディテールが加わることで、動いた瞬間に表情が立ち上がり、KENZOが得意としてきた“民族性をエレガンスへ翻訳する”感覚が明快に表れていると言えますね。

ロゴで誇示するのではなく、刺繍と構造で世界観を語っていた時代の魅力が凝縮されている為、冬の装いをただ防寒で終わらせず、日常に文化的な奥行きを足したい方へ自然に届く存在と言えます。

スタイリングとしては、シャツやミニマルなトップスにスラックスを合わせることで、レザーの面と刺繍の余韻が最もクリーンに際立ちます。

またワンピースやロングスカートの上へさらりと重ねると、フォークロアのムードが柔らかく滲み、エレガントとモードの両方を無理なく行き来できる印象に仕上がりますね。

是非この機会に。