ラグジュアリー公式リセールと、「選ばれるアーカイブ」の条件
近年、「ブランド公式のリセール」「ブランド認定のプレオウンド」という言葉を目にする機会が一気に増えました。
Gucci がThe RealRealと組んで公式のヴィンテージページを立ち上げたことや、
Valentino が「Valentino Vintage」として世界各都市の古着店と連携し、バウチャーと引き換えに自社のヴィンテージを回収していること、
Balenciaga がReflauntと提携して「Re-sell Program」を始めたことなどは、その象徴的な例と言えます。
腕時計の世界では、Rolex が「Rolex Certified Pre-Owned」を立ち上げ、正規販売店経由で認定中古のみを扱う枠組みを整えました。
これらはいずれも、ブランドが「自分たちの二次流通」に、はっきりと責任を持ち始めたサインです。
では、この流れの中で、どんなアイテムが「選ばれるアーカイブ」になっていくのか。
その条件を、いくつかの軸から整理してみます。
- ブランド公式リセールが目指しているもの
まず、「ブランド公式リセール」は何をしているのか。
グッチは2020年、The RealReal内に専用ページを設け、自社が認めたセレクトのヴィンテージをキュレーションする形で二次流通に参加しました。
ヴァレンティノは2021年から「Valentino Vintage」をスタートし、世界各都市の古着店と協業して、顧客が持ち込んだ自社ヴィンテージを評価し、バウチャーと引き換える仕組みを作っています。
バレンシアガはReflauntと組み、店舗やオンラインからの買取、鑑定、撮影、委託販売までを一気通貫で行うプログラムを導入しました。
時計業界では、Rolex のCertified Pre-Ownedが分かりやすい例です。
正規販売店が一定年数経過したロレックスを下取りし、ブランドの基準でオーバーホールと真贋判定を行い、「Certified Pre-Owned」の証明書と2年保証を付けて再販売する。
いずれも共通しているのは、
・「本物かどうか」の保証をブランド自身が与えること
・コンディションを一定水準以上に揃えること
・新品市場と矛盾しない価格帯・世界観で見せること
この三点です。
二次流通全体から見れば、ごく一部の枠でしかありませんが、ブランド側からすると、
・偽物や粗悪な状態の流通によるイメージ悪化を抑える
・長く使われている姿を示し、耐久性と価値の証明にする
・新作とヴィンテージの距離感を、自分たちの手で整える
という意味を持っています。
- 公式リセールの対象になりやすいもの
では、公式リセールやブランド公認ヴィンテージの枠に入りやすいアイテムには、どんな共通点があるのでしょうか。
一つ目は、「そのブランドを象徴しているかどうか」です。
Gucci×The RealRealの取り組みでも、バッグやシューズ、ウェアの中で、過去のロゴ使いやシグネチャーパターンが明確なものが多くピックアップされました。
Valentino Vintageでも、ハウスコードが見えるプリントやドレスが前面に置かれています。
二つ目は、「コンディションと修復可能性」です。
ブランド側は、自らの名義で保証を付ける以上、過度なダメージや改造履歴のあるものは扱いにくい。
RolexのCPOも、完全に分解整備を行い、本来の仕様に戻せる個体だけを対象にしています。
三つ目は、「来歴や年代が説明できるかどうか」。
ValentinoやAlexander McQueenとVestiaire Collectiveの「Brand Approved」のように、ブランドが一度チェックし、年代やコレクションの文脈を付けて再販売する枠では、タグや内部ラベル、アーカイブ資料と照合しやすい個体が選ばれます。
こうした条件を満たすものだけが、ブランドにとっての「扱う価値のある過去のプロダクト」として、公式リセールのラインナップに並びます。
- 「ただの中古」と「アーカイブ」の境目
二次流通の現場では、同じモデルでも「中古」として扱われるものと、「アーカイブ」として扱われるものが分かれます。
その境目には、いくつかの層があります。
・デザイナーや時代の重要性
特定のクリエイティブ・ディレクター期(例:フィービー期Celine、ラフ期Jil Sanderなど)や、ブランドの転換点となったシーズンのものは、のちに資料的価値を持ちやすい。
・デザインと構造の独自性
単にロゴが大きいだけではなく、そのブランドでしか出せないカッティングや素材の使い方があるかどうか。
・タームの積み重ね
発売直後の過熱ではなく、5年、10年と経つ中で評価が落ちず、むしろ安定して指名買いされているかどうか。
時計の世界では、Rolex やPatek Philippeの一部モデルが、まさにこうした条件を満たすことで「投資対象」としてのリセール価値を築いてきました。
ファッションにおいても、Hermèsのバーキンやシャネルのクラシックフラップ、特定の時代のコートやジャケットが、同じようなメカニズムで評価されています。
ブランド公式リセールは、この「アーカイブになり得るもの」と「そうではないもの」の線引きを、自ら行っているとも言えます。
- 二次流通が“ブランドの外側”から“拡張された内側”へ
ひと昔前、二次流通はブランドの外側にある世界でした。
アウトレットや中古市場は、あくまで「売れ残り」や「手放されたもの」が流れていく場所という扱いで、ハイブランドにとってはできるだけ距離を置きたい領域でもあったはずです。
しかし現在、KeringがVestiaire Collective に出資したり、
Alexander McQueenがVestiaireと協業して「Brand Approved」ピースを選定したり、
Valentinoが世界各地の古着店と組んで自社ヴィンテージを回収するなど、
二次流通は「ブランドの外側」から「ブランドの世界観を拡張するフィールド」に変わりつつあります。
公式リセールは、その中でも特に、
・ブランドが自らアーカイブとして認めたピースを示す
・新品と中古の価値の差を、ブランド側の基準で設計する
・循環やサステナビリティへの姿勢を、具体的な仕組みとして見せる
という役割を持っています。
もちろん、その一方で、EUがラグジュアリーブランドに対し、再販価格の拘束などに厳しくメスを入れている動きもあり、
公式リセールと自由な二次流通のバランスは、今後も調整が続く領域です。
- 「選ばれるアーカイブ」の条件
ここまでの動きを踏まえると、これから先も「選ばれるアーカイブ」として残りやすいものには、次のような条件が見えてきます。
・ブランドの歴史の中で、明確な意味を持っていること
・構造や素材のクオリティが、高いレベルで安定していること
・適切な手入れや修復で、まだ十分に寿命が残っていること
・年代やコレクションが、タグや資料である程度トレースできること
・市場での短期的な熱狂ではなく、ある程度時間を経ても評価が続いていること
これらは、必ずしも「高額で売れるかどうか」と同義ではありません。
むしろ、「長く残ってほしい服」「ブランドの外側でも意味を持ち続ける服」として、静かに選ばれていく条件と言えます。
最後に、MOODとしての一言
MOOD はセレクトショップであり、リセールプラットフォームでも、ブランド公式のアーカイブ機関でもありません。
それでも、日々アーカイブやヴィンテージに触れていると、「この一着は、十年後も誰かが探しているだろうな」と感じる瞬間があります。
その感覚は、価格の高さや一時的な話題よりも、作りの説得力や、ブランドの歴史との結びつきからくるものです。
ラグジュアリーの公式リセールが広がっていくこれからの時代、
MOODとしては、「選ばれるアーカイブ」の条件を静かに意識しながら、
いま店頭に並べる一着一着を、できるだけ長く誰かのワードローブに残っていくものとして扱っていきたいと考えています。