「名コレクション断章」— Prada 1996/Dior Homme 2001/Margiela 1997
いまのワードローブに残る核と意味
Prada 1996|美を“わずかにずらす”
起こったことの解説
ミウッチャ・プラダは、可憐さや上品さをそのまま増幅するのではなく、色と質感の“段差”をあえて残し、違和感を品へと変換しました。鈍色(ブラウン/オリーブ/マスタード)を主役に、レトロな小柄やナイロンの艶を同じ温度で並置。高低差のある要素が静かに共存することで、甘さは控えめに、知性だけが輪郭として立ち上がります。
鍵となる視点
- “高級=均整”という常識をほどき、異なる温度を同じ礼節で扱う発想へ。
- 配色・柄・質感のアンバランスを、設計された違和として着地させる。
今日のワードローブへの取り入れ方
- 鈍色同士を重ね、白や黒は“整えすぎない”範囲に控える。
- プリントは面積を絞る。無地面に“置く”感覚で。
- ナイロンの光とコットンの素朴さを同じ温度でミックス。
- 全体を整えたうえで、一か所だけ小さく“ずらす”(配色・素材・柄のいずれか)。
Dior Homme 2001|細い線が態度をつくる
起こったことの解説
エディ・スリマンは、体・服・小物の線を一本に連続させる規律を提示しました。肩は体に正確に沿い、ウエストは軽く絞られ、膝下は細直線で落ちる。ラペル/タイ/ベルト/シューズの幅を揃えるだけで、視線は縦に流れ、装いが所作へと接続されます。細さは弱さではなく、静かな緊張として機能します。
鍵となる視点
- “サイズが合う”の一段上、線が途切れない精度まで詰める。
- 色数よりも幅の統一で印象を整える。
今日のワードローブへの取り入れ方
- ジャケットは肩幅を丁寧に合わせ、着丈を長くしすぎない。ウエストは軽くシェイプ。
- パンツは過度なテーパードに頼らず、膝下ストレート寄りを基準に。
- タイ幅・ベルト幅・シューズのノーズを同じ細さの温度で統一。
- 黒/白/グレーの三色を軸に、マット×微光沢の質感差で立体感を出す。
Margiela 1997|工程を美学へ引き上げる
起こったことの解説
マルタン・マルジェラは、完成品の表面に制作の言語をそっと残しました。トルソーを想起させる記号、キャンバスの素朴、外側に走るステッチ。作られ方の痕跡が清潔な造形の中で呼吸するとき、服は結果だけでなく、過程を含む物語として立ち上がります。
鍵となる視点
- “完璧な仕上げだけが価値”という前提をゆるめ、検証可能な痕跡を上質のまま提示。
- 粗野と整然が同じ面で共存するバランス。
今日のワードローブへの取り入れ方
- 痕跡は一点だけ:外側の白ステッチ、断ち切りの極細い縁などを控えめに。
- キャンバス/リネンなど“実務の布”を清潔なシルエットに載せる。
- 番号や小さなテキストは装飾ではなく注釈として少量添える。
使い分けの指針(まとめ)
Pradaは“わずかにずらして”知性を立てる。Dior Hommeは“線を揃えて”姿勢を整える。Margielaは“痕跡を残して”物語を添える。
どれか一つの操作だけでも、今日の装いは静かに更新され、落ち着きと個性が両立します。
MOODのひとさじ
MOODは、ずらし・揃え・痕跡という三つの操作を、エレガント/モード/ジェンダーレスの軸で丁寧に設計します。異なる温度の要素を同じ礼節で並べ、線の連続で姿勢を整え、工程の一片を詩のように留める。語りすぎず、手は抜かない——その均衡が、日常のワードローブを一段上の静けさへ導くと考えています。